「別次元」で済ませていいのか。

先日調達した外車にマイナーなトラブルが発生したのでディーラーに持って行った。

深刻なトラブルでもなく、再現性もなかったのだが、ディーラーに行くにはツンドラの奥地から高速道路を使っていかねばならず、定時にあがったとしても工場のクローズに間に合わないので何が何でも休日に連れていかねばならなかった。

外車のディーラーに行くのは、高級ブランド品の旗艦店に行くくらい緊張するし、仕事以外で人と話をするのは、苦痛極まりないので行きたくない。せいぜい集中が続いても20分がいいところで、話すネタがなくなってしまう。仕方がないので、スタッドレスタイヤの見積もりを取ろうというアイデアをひねり出した。しかし、よくある質問らしく15分ほどで終わってしまった。

その中で、担当者が「いまの車はどうですか」と尋ねたので「なんていうか……」と答えてはたと気づいた。私はこの車を評するための語彙を持ち合わせていないのだ。もちろん、今まで乗っていた国産車と比べてステアリングの反応が良いとか、加速性能がよく80km/hでも50km/hくらいに感じるほど安定しているとか、そういう些末なことはいえる。だがそれだけだ。本質を表現しているとは言えない。
300km/h近く出せるこの車の力の10%も体験していないし、まだ乗り出して半年もたっていない。だから伝えられるのはこれだけだ:「今までの車はなんだったんだ」。

「凄い車でしょう」と担当はいった。ここではたと気づいたのは、自動車評論家といわれるプロの表現の仕方だ。この違いを言語化できるのがプロというやつなのだろうと思う。営業は当然、人に車を買わせるプロなので、その能力を少なからず持っている。だが、各論的な話をする営業は恐らくあまり上手くないのだろう。

きょうびインターネットを漁れば、情報は多く出てくる。どんなマイナーな車だって、誰かが記事にしている。それが本物の記事かはわからない。私が今の車で高速道路を走ったことで分かったこともある。

手に入れてからは刺激的だったが、周囲の雑音にも悩まされた。例えば、私が不正に報酬を受け取って車を買ったとか、私がスピード狂だとか、そういう話だ。どちらも誤りだし、どちらも手に入れればわかることだ。計算上可能だったから買ったわけだし、アウトバーンを180km/hで走る車だからといって交通課は慈悲をかけてくれない。

いい加減買った車の車種くらい明らかにしろと思うかもしれない。だが、ご勘弁願いたい。なにしろこのツンドラの奥地であの車に乗っているのは私しかいない。すぐにバレてしまう。どうか好きなドイツ車の名前で補っておいて欲しい。

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